自然農との出会い

・大雨で失われた父の無農薬米
・“守りたい”想いから始まった探求
・自然の力を生かす農法との出会い

2018年・2019年の佐賀の大雨で、父の無農薬の田んぼが冠水し、収穫はゼロになりました。
毎年当たり前のように実っていた稲穂が、台風や長雨で一瞬にして倒れていく稲穂、 がっかりと肩を落とす父の光景を見て、 「どうすればお米を守れるのか」を深く考えるようになりました。

そんな中で出会ったのが、三重・赤目自然農塾でした。
2020年、初めて見学に訪れた田んぼには、 株元が太く、背丈も大きい赤米の稲穂が立っていました。
この土地の御神米、圧巻です。
見ただけで、これなら雨風でも大丈夫だとわかりました。
そのたくましい姿は、 今までの“稲”のイメージを覆すものでした。

「耕さない、肥料農薬を用いず、草や虫を敵としない」自然の営みに添った農

ここに目指しているものがあったことを父に伝えました。

初めての学び

赤目自然農塾に塾生として通い始めたのは2023年4月。
夫を半ば強引に誘い、アウトドア気分で始めたつもりが、
気づけば毎月の学びが生活の一部になっていました。

最初の作業は苗代づくり。
周囲にモグラ侵入防止の溝を掘り、表土を削る。草の根を取り、種を下ろし、土を被せる。
手で土を感じながら整える。

「土を触る」という単純な行為の中に、自然と向き合う奥深さがあることを知りました。

田植えも、稲刈りも、乾燥も、脱穀も、すべてが手作業。
一粒一粒の命を感じながら苗を植え、稲穂が立ち上がる姿を見守りました。

その過程で、汗をかくほどにひとつの気づきがあり、言葉では言い表せない喜びがありました。
体を使って覚えるからこそ、見えてくるものがありました。

また、がむしゃらに頑張るだけだったこれまでの自分と真逆の、
「自然の営みに添った農」という言葉の意味が、少しずつ体に染みていった時間でした。

佐賀で本格的に

赤目で一年学んだあと、思い切って佐賀で田んぼを借りることにしました。
学んだ自然農の知識を試してみたかったのです。

大阪から片道約700km。金曜の夜に出発し、土曜の昼に到着。
作業をして一泊し、翌日昼には帰阪——そんな週末を繰り返しました。
体も時間もギリギリでしたが、「自分の手で作りたい」という気持ちが、その大変さを上回っていました。

赤目と佐賀では、気候も土の質も、流れてくる水も、草の種類もすべてが違い、
思うようにいかず、苦戦ばかり。
それでも、赤目で学んだことをひとつずつ思い出しながら、
丁寧にこなしていきました。

最後は、五年前の赤目で見たあの景色と同じように、
美しくて立派な赤米の稲穂を自分の田んぼでも見ることができました。
その達成感と嬉しさは、今もはっきりと心に残っています。

初めての収穫では、赤米15kg、うるち米7kg。
稲刈りが遅れて穂から米が落ちたり、スズメに食べられたりでしたが、悔しさよりも「ここまで来れた」という実感が何よりも嬉しかったです。

学びを重ねて

二年目は、赤目で基礎を学び、京都木津で応用を学び、
佐賀では実践する——そんな一年でした。

それぞれの土地で田んぼの大きさや環境も違うので、その場所に合わせた作業の流れを教えていただきました。

苗の間隔、草刈りのコツ、少し手を抜くと後で大変な目にあいます。
小さな違いが大きな結果につながることを体で知りました。

倒れない稲を目指して一本一本を植え、
出穂を迎えたときには、少しほっとします。

三年目の今年は、自然栽培にも挑戦しました。
自然農で培った知識をもとに、必要な部分だけ機械を導入し、
作業を効率化しながら、手作業の感覚も残しています。

また次の年に、と、毎年の成長が楽しみです。

これから

お米づくりを通して、自然と向き合う厳しさと、
その奥にあるおだやかな喜びを知りました。

無農薬は「難しくない」と言っていた父の言葉の裏には、
泥に足を取られながらの草取り、
真夏の強い日差しと水面の照り返しの中での作業、
想像以上の努力と根気があったことも実感しました。

テントを張り、暑さに耐えられず30分毎に休憩してはおやつを食べていたこと。
歌いながら、笑いながら作業できた日は、
楽しい記憶として残っています。


三年目の自然農でできたお米、朝日は四畝で90キロ以上の収穫がありました。
初期の草取りは熱心に行いましたが、あとはタニシが除草をしてくれて、稲だけが丈夫に育ったおかげでもあります。
気象や害虫の被害がなかったことも運がよかったです。

これが毎年続くとは限らない、いつかトラブルに直面したらその時はーー、

思い通りにならないときは自然に委ねてみる、
自然のままが案外うまくいくコツなのかもしれません。

五年前に質問した答えのような気がします。

自然に沿う、農を楽しむ暮らしが出来ればと思っています。